どん底
どん底
黒澤明
発売日:2003-03-21
おすすめ度 ★★★★★
売り上げランキング:14011
★★★★★ 2006-07-29 苦い喜劇
黒澤の傑作群にあっては 幾分地味な一作である。確かに 派手な決闘シーンがあるわけでも無ければ 馬が走り回るような 大仕掛けもない。奇抜な筋立てがあるわけでもない。貧しい長屋のホームドラマでしかない。
逆にいうと 野心作であると思う。自分の得意技を封印して作った分だけ挑戦的であったはずだ。
黒澤の大きな特徴としては 海外の文学を 日本の劇に翻案する手さばきの見事さがある。「蜘蛛巣城」、「白痴」等があるが この「どん底」も 言わずと知れた ゴーリキの作品だ。原作を読んでみると この映画が原作に忠実であることが良く分かる。それだけ上手に翻案しているということだ。観ていても 本当に無理がない点は 舌を巻くしかない。
黒澤は「どん底」を喜劇と読んだと言っている。確かに映画の「どん底」には おかしさが通常低音として響いている。但し この喜劇には 苦味が詰まっている。これも 有る程度 年を食わないとわからない部分かもしれないが。
★★★★☆ 2005-03-02 再評価に値する
「白痴」「マクベス」「リア王」「どん底」。黒澤監督が映画化した外国文学の中では、この「どん底」に一番好感を持ちます。ゴーリキイの原作(ソ連の消滅した今、なかなか手に入らなくなりましたが、一級の戯曲です。福田恒存も演劇入門として奨めてゐます)を、江戸時代の日本に無理なく置き換へ、省略はあるもののほぼ忠実に映像化し、狭い窪地の底にある長屋を舞台に、馬も鉄砲も刀も槍もなく、劇そのものと役者の演技だけを見所として、芝居の神髄に迫つた作品と言へます。
音楽・佐藤勝のクレジットはありますが、いつたいどこに流れてゐるのか、ただ出演者が馬鹿囃子をがなるばかり。台詞が緊密に詰まつてゐるため、伴奏を入れる余地はなかつたのでせう。確かに舞台で音楽を流されると邪魔に感じます。いい台詞は、それ自体が歌だからです。シェイクスピアをその通りに喋らせるわけにはいかなかつたでせうが、近代劇のゴーリキイとなると、(昔出てゐた神西清の名訳あたりを下敷きに?)余り改変せずに済んだのではないでせうか。そして、入念にリハーサルを積み、複数カメラで一気に撮影したといふ、その成果が出て、黒澤映画中、最高水準の演技が見られます。因業親爺の先代鴈治郎、鬼婆の山田五十鈴、お遍路(巡礼ルカ)の左卜全が特にいいと思ひます。
嘘にすがるか、真実に生きるか、真実の側を代表するサーチン(三井弘次の喜三郎)の台詞が、大幅に削られてをり、さて第四幕は何のためにあるのか、といふ疑問も湧きますが、江戸の長屋の住人に喋らせるにはあまりに演説くさく、不似合ひなので省略したのではないかと推測します。若い時分に見たときは、それが物足りなかつたのですが、今は気にならなくなりました。
撮影や編集のトリックがほとんどない映画です。傑作とはいひませんが、演劇好きの方にお奨めします。
★★★★★ 2003-08-21 幕切れに一本取られる
長屋に暮らす人々の機微を滑稽かつ悠然と描いた秀作。特別起伏のあるストーリーではないが、長屋を舞台に時の流れをたんたんと見せることで、1秒1秒のリアリズムを克明に描いている。他の黒澤作品でも多く姿を見ることのある名脇役、左ト全が存在感ある老かいな演技を見せてくれる。その演技はどの俳優の追随をも許さぬ程、素晴らしい。作品を食卓に例えれば、豪華な一品は見あたらないかも知れないが、最後には素朴な庶民の味が満腹感を与えてくれる。また、この作品を語る上でラストシーンについて触れないわけにはいかない。名人の落語を聞き終えた後のように「やられた」と、しばらくうならされてしまうほど秀逸である。
★★★★★ 2003-08-21 幕切れに一本取られる
長屋に暮らす人々の機微を滑稽かつ悠然と描いた秀作。特別起伏のあるストーリーではないが、長屋を舞台に時の流れをたんたんと見せることで、1秒1秒のリアリズムを克明に描いている。他の黒澤作品でも多く姿を見られる名脇役、左ト全が存在感ある老かいな演技を見せてくれる。その演技はどの俳優の追随をも許さぬ程、素晴らしい。作品を食卓に例えれば、豪華な一品は見あたらないかも知れないが、最後には素朴な庶民の味が満腹感を与えてくれる。また、この作品を語る上でラストシーンについて触れないわけにはいかない。それは名人の落語を聞き終えた後のように「やられた」と、しばらくうならされてしまうほど秀逸である。
★★★★★ 2003-08-21 ラストが秀逸
長屋に暮らす人々の機微を滑稽かつ悠然と描いた秀作。特別起伏のあるストーリーではないが、長屋を舞台に時の流れをたんたんと見せることで、1秒1秒のリアリズムを克明に描いている。他の黒澤作品でも多く姿を見ることのある名脇役、左ト全が存在感ある老かいな演技を見せてくれる。その演技はどの俳優の追随をも許さぬ程、素晴らしい。作品を食卓に例えれば、豪華な一品は見あたらないかも知れないが、最後には素朴な庶民の味が満腹感を与えてくれる。この作品を語る上でラストシーンについて触れないわけにはいかない。名人の落語を聞き終えた後のように「やられた」と、しばらくうならされてしまうほど秀逸である。
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