まあだだよ デラックス版黒澤明
発売日:2002-09-06
おすすめ度
★★★★☆売り上げランキング:30045
???黒澤明監督が敬愛する随筆家・内田百ケン(松村達雄)の後半生を、その教え子たち(井川比佐志、所ジョージなど)が主宰する「まあだかい」を主軸にしながら描き出していくヒューマン映画。
???現代では失われがちな師弟愛の美しさや尊さなどが、黒澤作品独自の極彩色の映像美でつづられていくが、そこには黒澤監督自身が歩んできた幼い日への憧憬が多分に込められているとみていいだろう。黒澤モノクロ映画時代を支えた名女優・香川京子が主人公の愛妻として久々に黒澤映画出演を果たしたことも、ファンにはうれしい話題だった。
???なお、黒澤監督はこの後『海は見ていた』の映画化を試みるも果たせず、また『雨あがる』の脚本を記すなどの活動を続けていたが、結果としては惜しくも本作が遺作となった。(的田也寸志)
★★★★★ 2006-01-24
ノラや、おまへは何処に居るのか百聞先生の晩年を色々な随筆からお話を繋ぎ合わせ、ひとつのまとまった映画にしています。
頑固でとぼけた老先生のフザケタ笑える話からほのぼのと始まり、後半は嫌というほど泣かされます。最近流行りの安っぽいお涙頂戴ものとはレベルが違う。
百聞を読んでいて話を知っていても、受ける衝撃が尚も大きいことに驚かされます。
個人的には、コレとフランダースの犬で泣かない奴は人間じゃないと思う。
いっそ弱っているとき、泣きたいときにこそ観てみたら如何でしょう。
★★★☆☆ 2004-09-14
これが遺作になるとは・・・ 黒澤明のファンとしても、そして内田百?のファンとしても少し残念な映画です。
確かに、黒澤監督がこの映画を撮るにあたって主題とした古き良き「師弟愛」というものは十分に描かれていると思いますが、内田百?のファンとしては如何せんやはり百?役の松村達雄氏がミスキャストだったように思います。確かに松村氏の演じている百?は、生徒に愛されるであろう可愛いおじいちゃんなのですが、実際の百?はもっと頑固で偏屈なくそじじいだったようです。百?の魅力の本質はそんなくそじじいでありながらも、生徒に愛されるというところだと思いますし、百?と弟子との間の愛情も、そんな百?の嫌なじじいだけど憎めないという人間性に根ざしているところが大きいと思うのです。そういった師弟関係での微妙な心理というものがこの映画にはあまりでていないように思えます。黒澤明ならそういった細やかな心理も描けたと思うのですが、やはり年だったのでしょうか、黒澤明のファンとしてはそこら辺がいまいち煮えきりません。
そんな中で、この映画最高の見所といえば、所ジョージの存在でしょう。巨匠黒澤をして「所君の映画は水のようだ」と言わしめたほどの彼の存在感は、並み居るベテラン俳優を押しのけて圧倒的に輝いています。
この映画が黒澤明の遺作となってしまったということは、この映画の完成度から言って多少残念なことに思えますが、心温まる良質な映画であるということはできるでしょう。
★★☆☆☆ 2004-09-11 超越のないクロサワ
老人の感性への退行。
クロサワは「赤ひげ」以降、(自殺未遂以降)、世界へ律動しなくなった。
そこでクロサワは超越していたのに、絵を描くような映画を作り始め、世界との親和と調和がどんどんテーマになっていった。
自分の立っている位置が見えない表現者の典型のような収束の仕方だ。
超越しないクロサワはクロサワではない。
初めから断念を構成し、見事に成熟させて行った小津安二郎と、対照的な終わり方をした。
★★★★★ 2004-07-18 黒澤監督最後の作品。
監督がご存命中につくった、最後の作品ですね。
私はまだ、黒澤監督の映画はこれしか見たことが
ありませんが、とても好きな映画です。
寺尾聡が、すごくいい味を出していると思いました。
言葉少な(ほとんどない?)でも、存在だけで
演技をしている、というか。何ともいい世界をつくり
出していると思いました。
あとは、所ジョージ。
えっ、黒澤監督の作品に所ジョージが出てるの?!って
思いましたが、これもまた、はまっています。
こんな先生に出会いたかったな、とも思わせられた
映画でした。
★★★★★ 2004-05-28 叙情的で美しい
上質で、そして暖かい映画です。劇中、ほとんどBGMが流れませんが、登場人物たち、実によく歌います。「仰げば尊し」、こんなにいい曲だったなんて。そして、先生の言う「ありがとう」という言葉、愛情に満ちていて、ステキです。日本語の美しさや、日本の曲の豊かさを認識します。大好きな映画です。
得点映像のディスクは、正直いって黒澤を持ち上げすぎのところが鼻につきます。せめて役者インタビューはほしかったです。
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夢 Akira Kurosawa's DREAMS黒澤明
発売日:2002-12-20
おすすめ度
★★★★★売り上げランキング:26219
???世界にその名を轟かせる真の巨匠・黒澤明監督が「こんな夢を見た」という書き出しから始める、「私」(寺尾聰)を主人公とした8つのファンタスティックな夢のオムニバス映画。製作にはスティーヴン・スピルバーグとジョージ・ルーカスが協力、また第5話にはゴッホ役でマーティン・スコセッシが出演している。
???黒澤自身の少年〜青年期を彷彿させる第1、2、3話、戦死者への哀悼の想いを込めた4話、画家を夢見た彼ならではのエピソード第5話。そして放射能に色をつけるという斬新なアイデアもさながら、現代の核問題危機を恐ろしいまでに先取りした第6話と、その後人類が鬼と化す7話。ついには、おごる文明を拒否し、自然と同化して生きる素晴らしさを訴える第8話へと至る。滅び行く日本の美、破壊されていく自然、そして核や戦争による滅亡の危機…。これらを回避するには、正義を貫く人間の謙虚な心しかないという、黒澤明自身の思想を夢という形で巧みに分散させた、真の映画的美しさに満ちた作品である。(的田也寸志)
★★★★☆ 2006-01-11
深読みし過ぎ?この映画は何度か見るうち、形式としてオムニバスであるが全て通して1つのストーリーなんじゃないか、という風にとれるようになった。
たしかに1つ1つの話でみると、ただ、自分の夢を映画化したに過ぎない。そんなはずないだろうと、私はある仮説を立てた。臭い話、このオムニバスのメインテーマは「生きる」ではないかな、って。
最初の2つ、 「 日照り雨」「桃畑」。この2つでは、子供が初めて、生や死に直面する場面を描いているんじゃないかと思った。
次の2つ 「雪あらし」「トンネル」。ここで表されているのは、生への執着。
次の3つ「鴉」「赤富士」「鬼哭」。ここでは生きる苦しみと生からの脱出。
そして最後に「水車のある村」の老人が言った一言。「正直、生きてるのは良いもんだよ」。
わたしが良いように解釈しただけなのかもしれないけど、人の一生の流れみたいなのを感じることができたように思う。
★★★★★ 2005-07-06
固まった。オムニバス形式の映画。
狐の嫁入りを題材にした第一話。
その行列が行進する様子が、見てはいけないものを見てしまったという
強烈な思いの反面、固まってしまって目が離せない。
嫁入りの行列は粛々と進みながら、みなが一斉に狐らしい動きで
振り返ったり止まったり。
何か畏敬の念を抱かすような、人間と交わってはいけない世界が
そこにあります。
第二話。
桃の節句を祝う名家の子供と友人達。
そこに現れた謎の少女。
少年はその子を追って、伐採されたばかりの
桃の木に辿り着きます。
その少年を待ち構えていたように、突然雛人形が現れるのですが、
その登場の場面、なんてことはないのにゾっとするほど印象的。
その後、伐採を嘆いてくれていた少年の為に、雛人形達は優雅な舞を
見せてくれるのでした。
その他、雪女から逃れる話。
また、自分の戦死を自覚せず現れた部下と、生き長らえた上官とが
トンネルにて相対する話。トンネルから青白い顔をして軍靴をならして
出てくる部下達に英霊の姿を見ます。
まだまだ胸打つ短編が詰まっています。
ある程度大人になってから観て良かったと思った作品。
十代で観ていたら、映像美だけしか残らなかったかもしれません。
それから、スピルバーグに感謝。
★★★★★ 2005-06-22 心に深く残る映画でした
はじめてこの作品をみたのは、
別の映画で上書きされたビデオテープの最後に老人と寺尾聰が風車の村で
語り合う話だけが残っていたのを見つけたのがきっかけでした。
この話がとても気に入り、なんども繰り返し見ていました。
そして何年かたち、ようやくこれが黒澤明監督の映画だとわかりさっそくレンタル店を探して見てみました。
やはりどの話も本当に監督が見た夢のような世界で
ただ夢物語を表現しただけというものでもなく、
人間のちっぽけさを感じてしまうような感情に襲われていきました。
そしてやはり最後をしめくくるにはふさわしい老人との会話の回。
とてもこの映画の世界に惹かれてしまいました。
一般的に認知度の高い他の黒澤監督の映画と比べると異色なものになっていますが
この話はとても気に入っています。
★★★★☆ 2004-10-12 水車小屋の村
この作品に出てくる8つのエピソードで私が一番好きなのは一番最後の「水車小屋の村」である。このエピソードの水車小屋の村に出てくる老人(笠智衆)がしみじみ私(寺尾聡)に語る「本来、葬式は見出たい物だよ、よく生きて、よく働いてご苦労さんといわれて死ぬのは目出度い」というセリフが好きだ。
黒澤監督の死生観が如実に現れているような気がする。
★★★★★ 2004-09-28 不当に評価の低い映画
黒澤氏が見た夢を映像化したもの。
「ストーリーが分からないから面白くない」という、
アホみたいな評価をした評論家もいたそうだが、
人間の夢とは本人以外には分からなくて至極当然。
『夢』にストーリーを求めるのは本末転倒である。
『トンネル』だけは、他の7編とは明らかに異質。
ストーリーもしっかりしており、涙無くしては観られない感動作。
個人的にはこれがベスト。だが、他の件も甲乙つけがたい。
全編を通して、『クロサワ』だからこそ撮れた作品だと、感心させられた。
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夢黒澤明
発売日:2006-07-14
おすすめ度
★★★★★売り上げランキング:26422
★★★★★ 2006-09-21
悪夢から美しい夢まで8話のオムニバスなので、全てがいいとか悪いとか、そういう見方はしませんでした。話の中で一番印象的だったのは桃畑の雛の舞。美しかった。怖かったのはトンネルの話。夢ってこうだよなぁ、訳分からないけれど、妙にリアルだったり・・・
色々なエッセンスがつまった不思議な映画でした。でも、まごうことなき夢を描いた映画だと思います。
★★★★★ 2006-09-05
スコセッシ漱石の「夢十夜」は、夢が夢であることをテーマに据えた作品でしたが、そのような試みには多く為されてきたものではありません。
夢が、魅力的であると共に、純粋な物語として機能しづらい一面があるからでしょう。
しかし、掴み所がなく、分析の手間を要する、そこが夢の魅力であると思うので、
本作に収められた、一部の「物語として機能する」ような夢は、正直なところ夢を用いるまでもなく、SFでも充分なものだったのが残念です。
明らかに環境問題を底流に意識したような全体の流れも、夢の余韻を「忘れさせてしまう」という意味では、作品の特性上あまり好もしくないと言わざるを得ません。
しかし1話の狐の嫁入りのまさに世界のクロサワな素晴らしい映像美や、最終話の「無国籍的な日本」という黒澤明的な人物の魅力などは素晴らしい。
なんやかんや今までに十回以上も見てしまっている作品です。
★★★★☆ 2006-07-18
『生きる』ことの素晴らしさを表現した黒澤監督の仕事私はこんな夢を見たという文字からはじまる8つのエピソード
ゆえにある意味実話にカテゴライズできるのではないだろうか
誰でもできそうで真似出来ない究極
個人的に「第5話/鴉」と「第8話/水車のある村」がずば抜けてよかったのですが
「第5話/鴉」はゴッホを題材にした話で主人公がゴッホの個展で絵を見ていて絵の中に吸い込まれていきゴッホと語るというメルヘンな話
ゴッホは言う
『こんな素晴らしい風景があるのにあなたはなぜ描かないのだ?』と
生きれるのに、夢を追いかけ、何をするのも自由で可能性は無限大なのになぜ止まる必要があるのかとそういうことだろう
『炎の人ゴッホ』という映画もよかったが強烈な言葉に見舞われる
言葉が強い人は映画監督だろうが画家だろうがミュージシャンだろうがどうにでも柔軟に対応できる資質を持ちあわせるのだ
だから画家になりたかった黒澤監督は画家も可能だ
「第8話/水車のある村」
では、老人が黒澤監督の『生きる』に匹敵する『生きる』を淡々と語る
電気もない村で水車を作る老人
彼に電気がなければ夜暗いでしょう?と聞けば
『夜は暗いもんでしょう、星が見えんでしょう』と・・
一言一言がどっしりする
『生きるのがつらいという奴はきどってんですよ』
ゴッホの話にも通ずるこの言葉は大切にしたい
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ロシア映画DVDコレクション デルス・ウザーラ モスフィルム・アルティメット・エディションイサク・シュワルツ
発売日:2006-04-26
おすすめ度
★☆☆☆☆売り上げランキング:16548
★☆☆☆☆ 2006-10-19
あれれ?思ったより画質が良くないと思っているのは私だけか?ぜひ海外で発売されているものと比較してみたい。
音声は5.1チャンネルリミックスでクリアになっていて良い。
★☆☆☆☆ 2006-03-11
世界に誇れる名作だが…私は既にロシアで発売されたRUSCICO版を持っていますが、かなりの出来の良いDVDです。しかし、値段が高すぎます。
もう一度言いますが高すぎます。3000円以下なら間違いなく5☆です。
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乱黒澤明
発売日:2003-03-21
おすすめ度
★★★★★売り上げランキング:12706
???シェイクスピアの『リア王』をもとに、人間の業をまざまざと描き出す、黒澤明監督晩年の戦国絵巻。一文字家の党首・秀虎(仲代達矢)は3人の息子に家督を譲ろうとするが、それがもとで兄弟の骨肉の争いが始まり、やがて秀虎は発狂してしまう…。
???監督本人いわく「自らのライフワーク」と語っただけあって、そこには自身の人生観を凝縮させたかのような壮絶な思いと、仏にすら見放されたかのような人間たちに対する祈りといったものが見え隠れする。
???前半のクライマックスとなる三の城炎上の際、一切の効果音をやめ、武満徹の音楽だけで、荘厳な地獄図絵を見せつける演出のすさまじさ。ワダエミがアカデミー賞衣裳デザイン賞を受賞など、それぞれのスタッフワークもすばらしい。(的田也寸志)
★★★☆☆ 2006-10-15
どよーん・・・ 同じ時代劇でも(初期の)「水戸黄門」や「江戸を斬る(西郷輝彦主演の)」に慣れていた私にとって「どんな素晴らしい作品だろう。」と思って期待してみたら、この「乱」は「どよーん・・・」という感じだった。なんとも掴み所が無かったのである。観終わった後も「どよーん…」としていた。「何が言いたかったのだろう…」と。何か「狂気じみたもの」は感じたが、それ以外は特に何も感じなかった。別に不快というわけではないのだが、なんかこう首を捻ってしまうのだ…「また観たいか?」と訊かれれば「うーん…」と困ってしまうだろう。(あまり過大な期待を持って観るとダメみたいだ。これは予備知識として「黒澤は名監督だ。”世界のクロサワ”だ!!」という意識が有って「そりゃあよほどの名作に違いない!!」と思って観たら「あら?これだけ??」となってしまう。)
★★★★☆ 2006-10-07
黒澤を失った時代に 「乱」は黒澤にとってライフワークだったと黒澤自身がどこかで言っていた。公開当時も鳴り物入りだった記憶がある。大学生であった小生も 言葉通り映画館に駆けつけた。見終わって どちらかというと失望した記憶がある。「椿三十郎」や「七人の侍」の作者が この程度なのかと。
公開されて20年が経ち 小生もいささか年を取った。その分 落ち着いて考えられるように少しはなった。今考えてみて「乱」は その志においては 高いものがあると思う。リア王を日本の時代劇に翻案するということ自体が 十分に実験的だ。「蜘蛛巣城」で既にマクベスの翻案に大成功した黒澤にしては ごく自然な流れだったのだとは思うが。
映像、美術、音楽、衣装の見事さも確かだ。カラー映画としての黒澤映画を考えると 本作が最もカラーを活かした作品である。
役者はどうか。小生は 今でも 仲代達也とピーターの造形が デフォルメされすぎたと思う。もう少し 普通で地味な造りにしても良かったのではないか。特にピーターの役は 本作の最大の隠し味であることもあり もう少し 枯れた部分があるべきではなかったかと思う。
黒澤を失ってずいぶん時間が経った。この喪失感を埋めてくれる監督は現れてこない。現われようもないのかもしれないが。
★★★★★ 2006-09-29
私が初めて見た黒澤作品中学の終わりか高校あがったばかりの頃の作品。シェイクスピアにも黒澤監督にも興味
なかったガキでした。
この映画の数年前にテレビで影武者をものすごい勢いで取り上げていて、それらで黒澤監督
の名を初めて知り、新作が封切りされると聞いて映画前売りを買いました。
その前売りデザインが主の無い兜の群れで前立てが個性的なデザインが多く、とても美し
かった。
冒頭(後に知りましたが熊本辺り?の山々だったとか)の雄大な風景に引き込まれ、後は
ラストまで(文字通り)時の流れを意識することなく作品世界に浸っていました。
老いた映像作家の美意識、ツボを押さえた演出。魅力的な群像劇。
これで監督の作品にいかれました。(とはいえ嫌いな作品もあるんですが)
その後自分であれこれ調べるようになってから、砦の寄せ方が画としての面白さだけを
追求している事に気づかされたりとか、がっかりした部分も出てきてはいるんですが
でもやはり初見の衝撃が私を捉えて離しません。
是非一度みる事をお勧めします。
付
鉄修理役の井川比佐志がいい役をもらって活き活きしてます。今でも彼のファン。
★★★★★ 2006-09-28
黒澤明の「リア王」−−不満も有るが、矢張り傑作中の傑作 シェイクスピアの『リア王』を戦国時代の日本に移植した、黒澤明監督の晩年の作品(1985年公開)である。黒澤監督の代表作と呼んで良い傑作である。『デルス・ウザーラ』公開後、製作が発表され、紆余曲折を経て完成した作品なので、『乱』が完成した時の嬉しさは忘れる事が出来無い。公開当時、映画館で何度も観たし、黒澤ファンである私が、この作品に抱く気持ちは深い。だが、溜息の出る様な素晴らしい部分と、少々失望を感じる部分が混在して居る事は否めない。先ず、不満から言おう。私の最大の不満は、原作の道化に当たる狂阿弥と言ふ狂言師の性格が余りにも軽い事である。−−その台詞にも演技にも、深さが無い。−−これは、私だけの不満ではない。例えば、公開当時、黒澤ファンとして知られる或る漫画家は、文藝春秋の座談会ではっきりと「ミスキャストだ」と発言して居たが、私は、ミスキャストだとは思はない。むしろ、脚本に原因が有ったと思って居る。他にも不満は有る。
その上で言ふが、この映画は、矢張り、傑作である。公開当時、淀川長治氏が言った様に、この作品には、『七人の侍』が有り、『蜘蛛巣城』が有る。又、秀虎と狂阿弥が隠れる城の廃墟には、『悪い奴ほどよく眠る』のあの工場のイメージが見て取れる。−−まさしく、黒澤監督の「遺言」だったと言ふ気がする。−−合戦の場面における自然の美しさや、落城の場面における火の美しさなどは、言葉では言ひ表せない。−−矢張り、傑作である。−−余談だが、私は、黒澤監督は、『リア王』をもう一回映画にした事が有ると思ふ。それは、『生きものの記録』である。黒澤監督の映画の何本かを、同時代に見る事が出来て、私は、幸福であった。
(西岡昌紀・内科医)
★★★★★ 2005-10-23
「乱」は「リア王」とは全く別の作品である「乱」は「リア王」とは全く別の作品である、と理解したい。
「乱」は、単純化すれば、愛と憎しみの悲劇です。楓の方には、一文字家を滅ぼす充分な理由があります。あり過ぎる、と言いたい。でも、こういう愛憎の悲劇なら、古今東西いくらでもあります。「乱」は、そのような中でも第一級の作品であることは否定しませんが、原作の「リア」はそういう悲劇を扱っているのではありません。「神々に対する俺たちは、わんぱくどもにとっての虫けら。俺たちは戯れに殺される」(4幕1場)。父親が、血肉とも言うべき娘たちに命を狙われるということ。動機は様々に考えられますが、この非情さと不条理。子供が遊び半分に虫を捕まえて殺すように、人間が殺し殺されるということ。その意味で「リア」は不条理の悲劇と言えるでしょうが、「乱」は条理の悲劇でしかありません。「リア」は哲学ですが、「乱」は因果応報の物語でしかない(私は本当は、シェイクスピアはカントやヘーゲルのような哲学者よりも大きい、と言いたい)。
黒澤作品の脚本は大変高く評価されていますし、実際優れています。でも、この「乱」の脚本では、どんなに頑張っても壮大なスペクタクルにしかならない。それとも、リアを上演するのは大変難しいといわれていますから、映画化するに当たって、はじめから狙いを原作とは違うところに置いたのか(「リア王」に戦闘場面は一箇所もない!)? そうであるとしたら、ますます、「乱」は「リア」ではない、と言いたい。「蜘蛛の巣城」は「マクベス」である、という意見に、私は反対しませんが、「乱」は「リア王」である、というなら、賛成しません。
「乱」は、確かに凄い。でも、原作の「リア」は、もっと凄い!
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影武者黒澤明
発売日:2003-01-31
おすすめ度
★★★★☆売り上げランキング:12544
???時は戦国時代、甲斐の名将・武田信玄(仲代達矢)は敵の雑兵の弾に当たり死去。配下の者たちは「我が死を3年隠せ」という主君の遺言に従い、彼そっくりのコソ泥(仲代達矢・2役)を信玄の替え玉に据えて難を逃れようとするが…。
???黒澤明監督が久々にメガホンを撮った時代劇で、製作にはフランシス・コッポラやジョージ・ルーカスも参加し、またカンヌ国際映画祭でグランプリを受賞するなど国際的貫禄を誇る作品。黒澤監督独特の色彩センスがもっとも幻惑的に映えた作品ともいえる。しかし、当初主演に予定していた勝新太郎をクビにしたり、また黒澤映画長年の名パートナーでもあった作曲家・佐藤勝が、芸術的見解の相違から音楽を降板するなど、製作上のトラブルの絶えない問題作でもあった。(的田也寸志)
★★★★☆ 2006-10-07
若き自分との戦い 「影武者」は「乱」を作るための前哨戦という言い方を どこかで黒澤自身がしていた記憶がある。前哨戦にしては3時間になんなんとする大作であり まずこの点は敬意を表したい。
黒澤ファンとして この映画を語ることは 幾分難しい気がする。他のレビュアーの方も仰っている通り 全盛期の黒澤映画に比べると やはり 黄昏と言うべきかとも思うのだ。黒澤が持っていた天馬空を翔るといった 想像力と創造力が やはり本作においては見られない。
繰り返すが 本作品は 極めて丁寧に作られた大作であり 凡百の時代劇映画と比較すべくもないと思う。但し「極めて丁寧」は 黒澤映画にとっては 只の「必要条件」でしかありえない。「十分条件」が足りないのである。これが 黒澤の晩年の諸作の特徴だ。黒澤にとって 自分の若き日々の作品は 恐ろしいほどの桎梏になったのではないかと 今 思う。
★★★★★ 2006-09-22
盛者必衰栄光は儚い。
一時凌ぎは、所詮、幻。
戦国の臨場感タップリ。
老臣忠臣は、消え去るのみ。
戦場シーンの迫力は、流石、黒澤。
役者の迫力は、秀逸。
歴史的名作を楽しみましょう。
★★☆☆☆ 2006-09-16
不動如山三時間にわたってこの緊張感の持続はありえない。
空気が張り詰めた、三人の同じ容姿をもつ男が並ぶオープニングから、悲愴美のきわみといえるラストまで、ひとつの壁画を眺めている気分だ。まさしく、影武者は「絵」である。「映像」以前に「絵」として展開する。そんな気がする。
勝新太郎ファンの方、彼の「信玄」が拝めるこのDVDは買わない手はありません。感動物です。勝影武者が実現しなかったという悲劇が、より一層この映画を美しくしているのですから。
★★★★★ 2006-05-27
三人の信玄冒頭での三人の信玄のシーン…。強烈に印象に残っている。三人の信玄は外見は似ているが実は心中はそれぞれ違うと感じた。本物の信玄は、武田家の為に、純粋に甲斐の平穏の為を願う。信廉は兄の想いを理解していながらも、兄の影を長年勤めて自分を殺していきることの苦悩を知っているが為、純粋に「家」の為と割り切ることができない。影武者は「家」というものではなく「信玄」に惚れ信玄自身の為に。そして、この三者の思惑は、武田家に縁もない影武者の行動一つに係ることになる。それだけに信廉、重臣達、そして、身分の卑しい影武者を父と呼ばなくてはならない実子・勝頼のそれぞれの苦悩と苛立ち、心の溝が伝わってくる。名門武田家にとって、いかに「信玄」という存在が重臣達と親族衆の間のかすがいになっていたかが分かる。勝手な感想ではあるが、「人は城、人は石垣…」と詠った信玄の詩の意味がこの映画を通して少し理解できた気がする。長篠などの合戦シーンは迫力があったが、それ以上にそれぞれの心を描き出している点に、ただの戦国絵巻に終わせない際だった存在意義があると思う。
★★★☆☆ 2006-03-11
二人の影武者の物語兄である信玄を失った信廉(山崎努)は、影武者(仲代達矢)を使って信玄の死を秘匿、敵である織田家だけではなく武田家臣団までも欺こうとするが失敗する。勝頼の暴走を止めることももはや出来ず、長篠の合戦で武田軍は敗北、信廉は兄の遺志を遂げることが出来ない自分の無力と武田家の滅亡を悟る・・・。
死んだ兄の姿を再び見たい、という望みと、自分では兄の築き上げたものを守れなかった、という悲しみが、(黒沢監督の意図とは別に)私の心の中ではこの映画の主要なテーマとなっています。・・・それでいいのだ。
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赤ひげ黒澤明
発売日:2002-11-21
おすすめ度
★★★★★売り上げランキング:11562
???江戸時代末期、エリート青年医師・保本登(加山雄三)は心ならずも貧民たちの施設・小石川療養所に配属される。しかし、そこで出会った「赤ひげ」の異名をとるベテラン医師・新出去定(三船敏郎)に感化され、真の人間愛にめざめていく。
???山本周五郎の名作を黒澤明監督が2年の歳月をかけて映画化した超大作で、黒澤ヒューマニズム映画の頂点ともいえる名作。貧困にあえぐ人々のさまざまなエピソードから、逆に人間の尊厳が醸し出され、強い希望をもって生き続けていくことの大切さなどが、パワフルな説得力を伴って描かれていく。三船敏郎は本作でヴェネツィア国際映画祭主演男優賞を獲得したが、同時にこれが黒澤映画最後の出演作となる。それはまた、黒澤映画の転換をも促すことにもつながっていった。(的田也寸志)
★★★★★ 2006-03-12
ハリウッド映画にも負けない黒澤映画については全くの初心者なのですが、これはとても面白い映画です。時代設定にもかかわらず全く古さを感じないのです。映像美についてはもちろんのこと、三船敏郎演じる新出去定の台詞のすべてが実に深い洞察力に満ちており、その透徹した人間理解と現実認識は現代においても十分に通用するものがあります。力強く骨太なところと実に繊細で温かいところが混じり合ったような新出去定という人物に、黒澤明監督の人柄が実に見事に重なり合っているという気がしてなりません。
★★★★★ 2006-01-08
実に良い作品です。 時間は3時間と結構長いですが、ぜひオススメします!
今時、こんなストレートな表現の映画があるでしょうか。
やれ差別発言だ、ナントカ蔑視だ、と表面上の細かい部分にうるさい世間に押さえ込まれてテーマのぼやけた映画より、よっぽど生きることの苦しさ哀しさそして希望を描ききっていると思います。
そりゃあ男女差別も身分差別もあったでしょう。
お金がないと何も食べられません。
物乞いもします。
心中もします。
そんなことを今の人達は考えもしないでしょう。
何もかもが足りているのですから。
何が足りないって?携帯のメモリ?バカ言ってんじゃないよ、って思ってしまいます。
この「貧困と無知」の時代があればこその、今の平和です。
そして「なぜ生きなくてはならないのか」という問いに対する答えの一つが、ここにはあります。
詳しくはぜひ実際に見て、感じていただければと思います。
この作品は従兄弟の勧めで見ましたが、その従兄弟の名言を紹介します。
「人間はね、誰か呼び戻したいと思ってくれる人がいる限り、生きないといかんのよ。」
★★★★★ 2005-11-27
人間の成長の物語原作は連作形式で、エピソードが分けられています。黒澤はそのエピソードを圧縮しながらも原作の素晴らしさをまとめ上げました。
黒澤監督のテーマである「庶民の視線」「貧困と犯罪」「反権力」が見事に融合した作品です。
こういういい作品を見ると、しばらく他の何も受け付けたくなくなります。
★★★☆☆ 2005-11-23
正直長い3時間強の時間は正直長さを感じました。特に前半の養生所の人たちの
勝手に語られる不幸な身の上話が、暗い天気や荒野のようにすさんだ土
地と相まって重くのしかかってきます。
ところが、やはり黒澤マジック。後半へと物語が進んでいく中で、赤ひ
げ先生がいる小石川養生所の心地よさに触れ、最後にはこの養生所でい
つまでも暮らしてみたいと思ってしまいました。
正にこの陰から陽へ変わっていく前半と後半のコントラストが、この映
画の最大の演出となっています。
加山雄三演じる若い医者が、人間として成長していく過程。心まで病ん
でしまっている患者たちが、希望を見つけて人生を再出発していき、最
初は暗くて、うじうじしていたように見えた脇役たちが後半へ向かって
結束し、最後には天気や風景までもが明るく変わっていきます。そんな
中で対照的に、全く変わらない三船敏郎演じる赤ひげ。世界の黒沢らし
い考え抜かれた演出であり、子役やカメラマン、お大道具さんや小道具
さんに到るまで、それぞれの役割を見事に演じきっています。(演じき
らされている?)
映像も黒澤映画らしい真正面から捉えた癖のない映像でどのシーンも写
真を見るような美しさを感じることができます。
「赤ひげ」はこういった黒澤らしい解りやすい映像や解りやすいストー
リー、解りやすい演出が見事に組み合わされた素晴らしい作品です。
★★★★★ 2005-11-05
おとよ 素晴らしい映画でした。忘れ難いシーンが沢山あります。どのシーンでも役者さんたちが生きています。主役級は無論のこと本当に小さな役の俳優さんたちも、その人にしか出せない光を放って輝いているのです。監督が描いた絵の中にだれもがまるで磁石で吸いこまれるようにぴたっとはまって息づいている様は感動的です。
特に印象に残るのはおとよです。生まれてからおよそ愛など受けたこともなく、いじめ抜かれた幼い野良猫のようなおとよ。自分に辛くあたる人だけでなく、救おうとする人にさえ小さな牙を向けてしまうほど人生に絶望しているおとよ。その彼女が保本との関係で次第に心を開いていき、愛を与える側になっていく。ニ木てるみさんの演技はその少女の細かい心のふるえまでも表現し見事でした。
いずれのシーンもまるで名画を切り取ったように完成度の高い黒澤映画ゆえ、どうしてもその映像面が語られ勝ちですが、黒澤映画の真髄は人間を一人もおろそかにせず描き切る、というところにあるのではないでしょうか。そしてこの赤ひげはその中でも特にその姿勢が感じ取れる作品だと感じました。
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天国と地獄黒澤明
発売日:2003-02-21
おすすめ度
★★★★★売り上げランキング:6222
横浜の高台に豪邸を構える製靴会社重役(三船敏郎)の運転手の息子が、重役の息子と間違われて誘拐。犯人は3000万円を持って特急こだまに乗るよう命令するが…。
エド・マクベインのミステリ小説『キングの身代金』を、黒澤明監督が翻案して映画化した社会派サスペンス映画の金字塔。やがて人質は解放され、警察(仲代達矢ら)の必死の捜査が始まるにつれ、明らかになる誘拐犯(山崎努)の思想。地獄のような薄汚れた町から、天国のような高台の豪邸を見上げていた彼の屈折した思いが、とりかえしのつかない事件をうんでいくのだ。その意味では単なるサスペンス映画ではなく、人間の内面の業に鋭く迫った、黒澤映画ならではの味わいに満ち満ちている。モノクロ映像のなか、一瞬カラー着色がほどこされるショッキング・シーンは観てのお楽しみ。後に『踊る大捜査線』映画版で、このシーンがパロられていた。(的田也寸志)
★★★★★ 2006-10-15
本当の理を上げるよ黒澤映画の中でトップ3に入ると思われるサスペンス超大作です。一番最初に寝ながら見てたのですが、所々の緊迫感に何度も起き上がり画面に食いついたのを覚えています。素で「面白い」とつぶやいたのも、覚えています。
★★★★★ 2006-04-08
豪邸は見事な位置に建ってます基本は誘拐ものなんですが、
さまざまなドラマが絡んでいます。
・社長の息子と間違えて
運転手の息子を誘拐してしまったことを逆手に利用する犯人
・会社を乗っ取る為の資金であるなけなしの金を、
他人の子供の為に払わなくてはいけないという事に葛藤する
社長三船さん
・新幹線を使った巧妙な身代金受け渡しと警察の特殊行動
等々
犯人が特定されてからの展開も目が離せず面白いです
GS前夜、ウエスタンカーニバル後あたりの
ヤング音楽で踊り狂う場面も見逃せません
阿片窟のようなところで、
中毒者、禁断症状者、コールードターキー野郎
に威される場面は、
まるで「ナイト・オヴ・ザ・リヴィングデッド」のゆらゆらゾンビでした
ちょっと感動しました
最後の山崎努さんの独白も鬼気迫ってて凄いです。
伊丹作品で山崎さんの凄さはわかってましたが、
若い時から凄かったんだなとびっくりしました。
ハンサムなところもびっくりしました
この場面では
後ろ姿での三船さんのカットも効果的で印象に残ります
あと仲代達矢さんもかっこよかったです。
パトレイバーの後藤さんの元ネタがわかりました
押井さんの名作である映画の「パトレイバー」1&2には
この映画の影響あるのかな?
とも感じました。
風景や質感、捜査場面の雰囲気などがそっくりでした
(ちなみに「2」は物凄い映画。
警察と○衛隊による内乱シミュレーション!!
「1」も凄いです)
冒頭の邸でのシーンはまるで演劇。
惹き付けられます
原作はまだ読んでいないのですが
どこまでが原作なのか知りたいです
それにしてもあの豪邸は見事な位置に建ってます。
はじめから建っていたものだったとしたら驚きです。
とにかく傑作でした
ここ最近の現実の犯罪が酷すぎるし醜すぎるので
この映画の犯人が全然卑劣に思えなかった所が
現代の悲しいところです・・
★★★★★ 2006-03-18
人間の光と闇とエゴの果てにあるもの 黒澤明が誘拐事件を題材に、現代の人間の光と闇とエゴを描き上げた一本。
スリリングで先が予想できない展開は、時間を忘れて楽しむ事ができた。主人公の人物描写がはっきりしないのは、善悪に揺れる人間臭さを出した結果で、余計にリアル感が増したと感じられる。
「天国と地獄」というタイトルも絶妙だ。
★★★★★ 2006-02-22
超一流 銃撃戦とカーチェイスばかりの昨今の刑事物とは大違いの本格派。犯罪は時代を映す鏡であり、時代の色を決めるのは人間だから、真剣に取り組めばこの「天国と地獄」のような鬼気迫る人間ドラマになる、のは考えてみればあたりまえだろう。この映画で山崎努を初めて見た時、日本にもこういう屈折した役者がでたか、と驚いた。そのエリート意識と綯い交ぜになった劣等感、鬱屈した青春像は欧米の映画ではよく見られたが、日本ではなかなかお目にかからないものだった。この山崎努をはじめとして、黒澤さんのスタッフえらびの慧眼には驚く。この人の作品でミスキャストだと思った記憶がない。カメラも黒澤さんの第2の目のようだ。この映画を見ると、映画自体の出来のよさはもちろんのこと、超一流のスタッフが火花を散らしながら働いている現場の熱気までもが伝わってくるようで、ぐぐっと感極まってしまうのだ。
★★★★★ 2005-12-30
綿密に仕込まれた犯罪と映画黒澤明という監督は愛や人情を主題に物語を創ると、「わが青春に悔いなし」、「赤ひげ」、「まあだだよ」などなど、単なる紋切り型のLOVEPOPな努力論やら農本主義に終始してしまう。それでも人間愛を描き続けたということは評価したいが、どうしても黒澤監督は人情を描いて小津監督の様にスンナリ観客を感動させるタイプではなかったように思う。
そんな黒澤監督だが、人間の苦悩や恐ろしさ悪知恵や天才的な遊び心を備えた超人などを描かせると右に出るものはいない。「羅生門」、「七人の侍」、「椿三十郎」、「隠し砦の三悪人」などと同様に、いやむしろ秀でて本作ではその強烈さやキメ細かさ、大胆さ、男のカッコよさ厭らしさが物の見事に描かれている。
首謀者は山崎努、ターゲットは三船敏郎、捜査隊長は仲代達矢、そしてそれらを取りか囲む実に芸達者な面々のさり気ない怪演。そして黒澤監督の鬼気迫る物語の運びや、大胆なカメラワークにて、2時間20分という長篇をまったく退屈することなく釘付け状態で終始することが出来た。黒澤明は本作の原作をアメリカの小説から引っ張ってきたらしいが、この上なく上等に演出し切っている。
久しぶりに文句無しにパワフルな傑作を観たという感で、とっても嬉しい気分になってしまった。また60年代の横浜をはじめ、湘南海岸線の景色が悠々と写し出されていて感動だった。例の如く、三船敏郎も仲代達矢も、そして若かりし頃の山崎努もカッコいいしね。香川京子もとっても綺麗。
余談ですが、警察の事件の捜査方法をここまで詳細に描いた日本映画は稀ではないでしょうか。
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夢 Akira Kurosawa's DREAMS黒澤明
発売日:2004-12-03
おすすめ度
★★★★☆売り上げランキング:59670
???世界にその名を轟かせる真の巨匠・黒澤明監督が「こんな夢を見た」という書き出しから始める、「私」(寺尾聰)を主人公とした8つのファンタスティックな夢のオムニバス映画。製作にはスティーヴン・スピルバーグとジョージ・ルーカスが協力、また第5話にはゴッホ役でマーティン・スコセッシが出演している。
???黒澤自身の少年〜青年期を彷彿させる第1、2、3話、戦死者への哀悼の想いを込めた4話、画家を夢見た彼ならではのエピソード第5話。そして放射能に色をつけるという斬新なアイデアもさながら、現代の核問題危機を恐ろしいまでに先取りした第6話と、その後人類が鬼と化す7話。ついには、おごる文明を拒否し、自然と同化して生きる素晴らしさを訴える第8話へと至る。滅び行く日本の美、破壊されていく自然、そして核や戦争による滅亡の危機…。これらを回避するには、正義を貫く人間の謙虚な心しかないという、黒澤明自身の思想を夢という形で巧みに分散させた、真の映画的美しさに満ちた作品である。(的田也寸志)
★★★★☆ 2005-01-26
明明の見た夢を描いたもので、それが心奪うような劇的なストーリーがあるわけでもなく、ただ淡々と描いているだけ。ただし、スピルバーグが製作しただけあって、お金がかかった結果、すばらしい映像となっている。特に最終話の田舎の風景なんか最高だぜ。
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夢 Akira Kurosawa's DREAMS黒澤明
発売日:2003-12-06
おすすめ度
★★★★☆売り上げランキング:39587
???世界にその名を轟かせる真の巨匠・黒澤明監督が「こんな夢を見た」という書き出しから始める、「私」(寺尾聰)を主人公とした8つのファンタスティックな夢のオムニバス映画。製作にはスティーヴン・スピルバーグとジョージ・ルーカスが協力、また第5話にはゴッホ役でマーティン・スコセッシが出演している。
???黒澤自身の少年〜青年期を彷彿させる第1、2、3話、戦死者への哀悼の想いを込めた4話、画家を夢見た彼ならではのエピソード第5話。そして放射能に色をつけるという斬新なアイデアもさながら、現代の核問題危機を恐ろしいまでに先取りした第6話と、その後人類が鬼と化す7話。ついには、おごる文明を拒否し、自然と同化して生きる素晴らしさを訴える第8話へと至る。滅び行く日本の美、破壊されていく自然、そして核や戦争による滅亡の危機…。これらを回避するには、正義を貫く人間の謙虚な心しかないという、黒澤明自身の思想を夢という形で巧みに分散させた、真の映画的美しさに満ちた作品である。(的田也寸志)
★★★☆☆ 2004-09-17
映像美で見せる映画 ・・・こんな夢を見た・・・
夏目漱石の『夢十夜』と同じ出だしで始まる八つの物語。
主に環境問題を中心にした物が多いが、他にも、自らの部下を戦争で死なせてしまった部隊長が死んでいった部下の兵隊達と語り合う第四話や、切られる運命にある桃の木がひな祭りの日に少年に見せる幻想的な世界を描いた一話目など、若い頃は画家を志していた黒澤の色彩感覚と芸術的センスが光る作品も収録されている。
黒澤が環境問題や戦争を取り扱った映画としては『生きものの記録』という水爆を主題にした作品や、広島の原爆をテーマにした『八月のラプソディー』があるが、本作でも黒澤は上述の二作品と同様の主張を繰り広げていると見てよいだろう。
若い頃から様々な社会派の作品を取っている黒澤だが、こういった戦争に関することを主題にすることが多いのは、やはり黒澤自身が戦争に従軍していないということと関係があるのかもしれない。
しかし、そういった強いテーマ性はあるものの、本作が映画としてその主題を適切に表現しているかというといまいち妖しいような気がする。確かに「自然を大切にしよう」とか「環境を守ろう」といった事を主張したいのだということは伝わってくるが、その伝え方があまりにもストレートで若干子供っぽい印象を持ってしまう。しかも、そういった単純な主張を繰り返し見せられることで、見ていて途中から何となく説教臭いような気がしてきてしまう。
年齢と言ってしまえばそれまでかもしれないが、天才黒澤もやはり年をとると説教くさくなるということなのだろうか。
★★☆☆☆ 2004-07-12 美しいのだが
黒澤晩年の作品は美しいが 本来彼の作品が持っていた脚本の面白さが無くなってしまっていると思うのは小生だけか?夢という作品は その脚本が脈絡もなく 本来であれば見るに耐えない作品かもしれないが それでも あえて言うなら それでも 嫌いではない。黒澤が絵描きでもあったことは知られているが その資質は十分出ていると思う。いくつかの場面での色使いはとても綺麗であり 思わず唸る場面だってたくさんあった。しかし 黒澤映画は基本的には白黒映画であり しかも 往年の彼の白黒映画が実に極彩色に見えたかを知っている小生としては やはり寂しいものがある。色に頼り始めたときに黒澤が衰えたということは 赤ひげとデルスウザーラを見比べた時に感じたが その直感は正しかったと思わざるを得ない。黒澤は 映画中のゴッホのように最後は狂ってしまったのかもしれない。但しゴッホのように狂人にしか見えない「美」を見据えていたのかもしれないと言ったら 贔屓すぎだろうか。
★★★★★ 2004-07-07 画家の環境問題啓発映画?
色彩は非常に美しいものの、ストーリーのテンポは遅くてちょっと退屈しました。
「夢」の世界を借りて、歴史を順にたどりながら
人間と環境との理想的な関係を追求した作品のように思えました。
第一話 動物と人間 狐の逢引きを覗いてはいけない
第二話 植物と人間 桃の木を切ってはいけない
第三話 雪山と人間 自然の脅威を侮ってはならない
第四話 戦争と人間 無念の死を遂げた兵士を中隊長がなだめる
第五話 文明と人間 蒸気機関車は産業革命の象徴?
第六話 原発 放射能に色を付けても「死神の名刺」と同じ
第七話 核戦争 鬼は苦しくても死なせてもらえない
第八話 理想郷 江戸時代のようなエコロジー社会
この価格なら、お子さんの教育のため(?)にも
一家のBGM(Back Ground Movie)としていかがでしょう?
★★★★★ 2004-06-26 詩的な世界
何が良かったのかと聞かれると具体的に述べる事は出来ませんが、現代と御伽の狭間を繰り返し漂っている様な瑞々しい感触が心地良い。個人的に「桃畑」が幻想的でとても良かったです。心にホロリときて繰り返し何度も見たくなる。こんなに感慨深い美しい夢って本当にあるのかな、あったら素敵だなぁと素直に頷ける作品でした。
★★★★☆ 2004-02-28 ゴッホに遭ったといわれても・・・
黒澤明の夢(妄想?)を映画化した画期的な作品。(有名な監督はこういうのやりたがるよね)幼少時代の狐の嫁入りは私もよく聞かされていた。場面は変わり桜か何かの花が舞い散るシーンは涙を流した記憶がある。そのくらい美しい。 未来は放射能で汚染されてみんな自殺したという暗い話だが、初めて黒澤が人間に絶望したシーンを撮ったなあと思った。ラストは爽やかに終わったのがよかった。
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