生きものの記録
生きものの記録
黒澤明
発売日:2002-11-21
おすすめ度 ★★★★★
売り上げランキング:27783
???鋳物工場の経営者・中島(三船敏郎)は、あるときから原水爆に異様な関心を示すようになり、全財産を処分して家族全員でブラジルへの移住を企てるが、反対する家族の者たちは裁判所に彼を準禁治産者とする申請を申し立てる。やがて申請は承認され、そのショックと疲労などで中島は狂乱の行動に出てしまう…。
???彼が狂っているのか、水爆をもつ現代社会が狂っているのかを厳しく問いかける、黒澤明の社会派メッセージ映画。三船は頭を白く染めて、初の老人役を熱演。また、本作は初期黒澤映画になくてはならない名作曲家・早坂文雄の遺作ともなったが、そもそもこの企画は、ビキニ環礁での水爆実験のニュースを聞いた早坂が、黒澤に「こう生命をおびやかされては仕事ができないねえ」と何げなく語った言葉がきっかけとなって生み出されたものであった。(的田也寸志)
★★★★★ 2006-10-15 家族
家族と動物に関しては、嘘偽りなく接する事が出来る数少ない存在と考えて、この作品はひしひしとそれを感じます。その感情を受け止めながら見るラストシーンは、感じた事の無いせつなさでした。
★★★★★ 2006-06-08 深く印象に残りました
黒澤監督の作品が好きで今までに何本か観ましたが、
今回は以前から興味があったのでレンタルしました。
水爆に対する恐怖から一家全員で異国に避難しようと言ってきかない
主人公とその家族、また社会の対比がすばらしく、考えさせられます。
水爆に対する純粋な恐怖を持っている主人公と、その恐怖を深いところでは共有しながらも日常では割り切って生きている他の人と、
どちらが狂気なのか?
どちらも人間の姿なんだろうと思います。
どちらか一方が正しくて他方が間違っているという単純な構図ではなく、複雑なその関係を前提に据えたうえでの問題提起。そのことを
黒澤監督は投げかけている気がします。
監督の作品は他にも考えさせられるものが多く、
真剣に何かを考えたいときに見ます。
★★★★★ 2006-04-26 チェルノブイリ後の人類への問い−−我々は、何故、死の灰から逃げられないのか?
私が、初めてこの映画を観たのは、1970年代の東京の映画館においてであった。その時から、私は、この映画の虜(とりこ)であった。だが、私が、この映画が描く物の意味を本当に理解したのは、1986年のチェルノブイリ原発事故の後の事であった。−−私は、この映画を観る皆さんに、この映画における「水爆実験」をチェルノブイリ原発事故に置き換えて、この映画の会話を聞いてみる事を勧める。
「核」の問題は、黒澤明監督が、終生こだわり続けた主題の一つである。余り知られて居ない事だが、黒澤監督は、原子力発電に強く反対する人であった。又、黒澤監督が、晩年、原爆投下への抗議として作った『八月の狂詩曲』が、公開当時、試写会で、原爆投下を正当化しようとする外国人特派員の攻撃を集めた事は、黒澤監督の正義感を証明しこそすれ、何ら不名誉な事ではなかったと、私は、思って居る。
この映画の特異な物語を通じて、私達は、正常なのは、実は、この、老人であり、この老人の死の灰への恐怖を共有出来無い私達こそが、生きものとして、異常である事に気が付かせられるのである。
チェルノブイリ原発事故から数年経った或る時、私は、この映画を思ひ出し、その事に気が付いた。−−私たちが、死の灰から逃れられない本当の理由は、私達が、私達の日常生活を捨てて、逃げる事が出来無いと言ふ、ただそれだけの理由であると言ふ事。−−これこそが、この映画が描いて居る、私達全員の悲劇なのである。
(西岡昌紀・内科医/チェルノブイリ原発事故から20年目の日に)
★★★★★ 2006-02-14 衝撃の問題作。
OPから徒ならぬ音楽、物語の異常さを予感させます。この作品は、当時の米ソはじめとする世界の核開発競争に警鐘を鳴らしているのですが、メッセージがストレート過ぎて敬遠する方も多いようです。逆に言えば、「よく作ったな」と思います。兎に角、「日本で暮らす一人の老人が、徒ひたすら核に怯える」という脚本のセンスがとても素晴らしいです。理由・原因が分からないとの批判がありますが、「“核の脅威”に理由など必要がない」ということでしょう。何かと批判の多い三船さんの役ですが、個人的には特に問題ないと思います。“ガタイがいい”のも、人の話に耳を貸さない、頑固なワンマン社長の雰囲気が良く出ていると思います。
大学卒業後に初めて観たのですが、法学部だった私は、民法で「準禁治産者」を学びましたので「そういえば習ったなあ。」なんて当時思い出しました。私が学生の頃はまだ「準禁治産者」だったのですが、卒業後、民法改正で「被保佐人」に変わりました。それにしてもラスト。一度観たら、一生忘れないでしょう。
★★★★★ 2004-09-19 深い作品
準禁治産者の宣告を受けるような人物の気持ちを説明してしまっては、元も子もないと思われます。マクベスの一節、「目の前にある恐怖など、想像力が生み出す恐ろしさにはかなわない」を思い起こすだけで充分でしょう。
志村喬の感情に入り込めなければ、この作品の面白さはわかりません。
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